みうみま大波小波の法則

 前々回、カタールオープンを取り上げたのですが、タイミングが早すぎました。丁寧(ディンニン)のエントリー取り消しにより、平野美宇は第8シードに繰り上がり。文章の意味も半分なくなってしまいました。
 これで第5から第7シードのハンインやウーヤン、伊藤美誠と早い段階で当たる可能性はなくなり、良かったのかも知れません。とはいえ、ノーシード組にも王曼昱(ワンマンユ)がいたりして、彼女のほうがよっぽど爆弾じゃないかという気もします。

 それと前々回の平野美宇の記事を書きながら、何か違和感が横切りました。大事なことを忘れているような、ゼッケンを付け忘れたまま試合に出てしまったような違和感。
 忘れ物の正体は、たぶん伊藤美誠です。
 みうみま研究家を自称する身としては、おぼろげな予感がする。順番からいくと、カタールオープンで暴れるのは美誠ちゃんなのではないだろうか、と。

 美宇が活躍すれば、次は美誠。美誠が先へ行けば、美宇が追いかける。ふたりはこうして成長してきました。大きな波と小さな波を繰り返しながら。

 これを「みうみま大波小波(おおなみこなみ)の法則」と呼びます。
 初めてのワールドツアー決勝進出は美宇が先。優勝は美誠が先。
 ブレイクスルースター賞は美誠が先に15年に受賞。美宇は次の年に受賞。
 五輪のメダルを先に取ったのは美誠。でも、ワールドカップの優勝トロフィーは美宇が先。

 伊藤美誠は先日の全日本選手権で、5回戦負けを喫しました。番狂わせと報じられた安藤みなみとの一戦です。
 完全に、相方の平野美宇に話題を独占されて、美誠ちゃんの影が薄くなってしまった。なかには「美宇に置いていかれた」などと、手のひら返すの早すぎな声も聞きました。

 いやいやいや、伊藤美誠を甘く見過ぎでしょう。
 昨年の世界ジュニアで見せた頼もしいほどの強さ。団体戦全勝で金メダルの原動力となった、無敵の神さま感。鋼にコンクリートを混ぜて固めたような、揺るぎないメンタル。
 一家に一台、美誠ちゃんロボットがあれば、たとえ東京湾からシン・ゴジラが襲ってきても美誠パンチで守ってくれそうな、そのくらいの頼もしさを感じたものです。

 そこで全日本で伊藤美誠が負けた試合、安藤みなみ戦をあらためて見返してみました。
 何がいけなかったのか、敗因は何だったのか。ドイツのカットマンじゃありませんよ。それはハンインです。
 当日の印象は、伊藤美誠が攻め急ぎすぎてペースを乱した。そしたら、安藤みなみが美誠の打球に慣れてきて、流れが変わった。そう受け取っていました。「相手が伊藤美誠のボールに慣れてきたのに、圧勝だった第1ゲームのペースに固執して負けてしまった」ことを敗因に挙げた記事もありました。

 しかし、これは違うのではないか。あらためて試合を見た感想は、逆です。安藤がペースに慣れたのではなく、ペースを合わせたのは伊藤美誠のほうだった。

 力の差がありすぎたゆえに第1ゲームを圧勝。これで一時的に集中を失い、第2ゲームの攻め急ぎから流れが変わったのは確かだとしても、その後はむしろ、伊藤美誠が慎重にプレーしていたのが見て取れる。
 この辺はリオ五輪のドイツ戦、大逆転負けの教訓があると思われます。第2ゲームの後半からは、慎重に、慎重にと、自分に言い聞かせるかのようなプレー。
 ところが、これが逆に相手を乗せてしまう。わずかにスローダウンしたプレーが、安藤みなみのリズムに合ってしまった。それまで速さについていけなかった安藤が、慎重になった美誠の打球にはぴったり合った。

 第4ゲーム以降は、伊藤美誠が凡ミスを連発。明らかな焦りが見られました。「なぜこんなに接戦になるの? 気を抜かずに、攻め急がずにプレーしているのに、なぜ1ゲームみたいにうまくいかないの?」という焦りでしょうか。
 第5ゲームはもう集中力がなかった。相手のサーヴを見送るだけでエースを取られるという、ひどい場面もあり、たちまち大差がつく。そこからようやく開き直り、本来のリズムに戻ったと思わせるプレーで追いつきますが、デュースで決めきれず。アンラッキーもあって12-14で落とす。これで実質、ジ・エンド。
 第6ゲームはミスを連発。打っても打っても入らない。自らタイムアウトを取るも、最後は7連続失点で6-11。ゲームオーバーとなりました。

 だから、あの敗戦はむしろ、伊藤美誠の成長を示すものです。いや、さすがにその言い方は無理がありますね。リオ五輪ゾルヤ戦の負け方とは違う。攻め急いだから負けたのではなく、攻め急いだことを反省しすぎてリズムを崩したから負けたのです。

 負けてしまったものは仕方がありません。挽回のチャンスはすぐにやってくる。「みうみま大波小波の法則」によれば、今度は美誠ちゃんの番です。

 世界上位ランカーが勢揃いするカタールオープン(2月21-26日)。中国選手も多数出場するこの大会で輝くのは、伊藤美誠なのではないか。そんな予感がします。